◆被害者プロフィール
- ペンネーム:木下圭吾
- 年齢:46歳
学校でも、職場でもいじめられて生きてきた私には、たったひとつだけ心の平静を保てる「お守り」の様な存在がありました。
曽祖父の時代から、代々受け継いできた、平屋建ての住居と土地です。
田舎だからと侮るなかれ、その評価額たるや億超え。
私は木下家の長男として、この住居と土地を守る立場にあります。
しかし、そんな住居と土地が気づかぬうちに、人手に渡ってしまいました。
地面師、と呼ぶそうです。あの化け物たちはまず…
伝来の土地建物を守る立場として
私は現在46歳の会社員でして、住まいは都内。実家は東北の某所です。
一応、肩書としては地主(それも今は「元」がつきそう…)と、いうことでよろしいでしょうかね(笑)。
さて、私の田舎は小さいながらも一通りの田畑もございますし、最近では開発も進み、そこそこの地所なんです。そこでまあ、代々長く商売をしておりまして。
父が亡き後は、もうその会社も無くなりましたが、今でも田舎との交流は続いています。
曾祖父の代からの付き合いがある方も多くて、私の事を「ボン」とか「坊っちゃん」とか呼んでくれて、皆さん良くしてくれるんですよ。
そうそう、その伝来の、田舎の土地。これが問題です。
最近では価値も上がってきて、維持管理も大変です。
しかし、曾祖父の代からの伝来の土地は、当時と比べるとたいへん高価なものになっております。
さらに、家柄というお金に代えられない、守るべきものもあります。そこで、私はこれを守る立場にあると考え、以降は売ろうなどとは一切思わないようになりました。
まあ、最近ちらほらと歴史的建造物に指定されそうな話も出てきているようで、それならそれで、曽祖父の功績が後々まで残ることですし、アリなのかなとも思っていた矢先でした。
毎年恒例の墓参りと現地視察
ところで、私は毎年欠かさないことがあります。
それは、墓参りと先祖の墓参りです。
まあ、無論、田舎の地所を見回り、時には草むしりのひとつでもしなければなりませんから、大変は大変ですけれども。
もちろん、これは先祖に対しての顔見せだけでなく、現在も続いている、田舎の地所のご近所の方々との、おつきあいの場になっていることも事実です。
ご近所さんは私のことを「ボン」「坊っちゃん」などと呼んでくれていますけど、なかなか親しみがあって良いもんです。
私を「ボン」なんて呼んでくれる人が、まだいるんだなぁと思うと、少し気持ちが晴れるというか。
ああ、すみません。話がズレてしまいましたね。
とにかく私は先日の八十八夜の頃、いつものように帰省しました。そして、地元の墓地へ足を運びました。
ただ、この日はちょっと変わったことがありました。
奇妙なことをご近所さんから聞く
懐かしい訛りが私に話しかけます。
とは、私が小さな頃からよく知っているおばあさんです。
ちなみにこの方は60年近く前に土地に嫁いできたんだそうで、土地の生き字引です。とはいえ、いきなり耄碌扱いもまた、随分と「ご挨拶」だなあと思い、
と反論します。
すると彼女が言うには、
うち一名は、ボン(編注:木下氏のこと)の名前を名乗っていた
身なりは東京の身なりだった
だからてっきり、ボンの雇った弁護士か何かだと思った
というではありませんか。寝耳に水とは、まさにこのようなことを言うのでしょう。
流石の私もにわかには信じることが出来ず、「ありゃ。ばあちゃん、ついにボケたか」とすら思いました。
しかし、それにしては話が具体的すぎます。ということで私は、一応念のため、帰京を一日延期して様子を見ることにしました。
法務局での咆哮
そうして私は翌日、地元の法務局でブルーマップとにらめっこです。
(※編注:ブルーマップとは、住所から不動産登記における「地番」を特定するための地図で地元の法務局などに備え付けられているもの)
結論、私は法務局で年甲斐もなく狼狽し、咆哮すら挙げました。
なぜかって、もうお察しでしょうが・・・私の、木下家の、「木下」以外の名前が出てこないはずの土地登記簿に全く知らない名字が記載されていたからです。
権利書がないと、売却契約など出来ません。
それが私の認識でした。
法務局の職員に促され、一度自販機で缶コーヒーを買って一服つけます。そこで出た仮説は
以下の3つでした。
- 1.何らかの差し押さえがあり、土地建物が持っていかれた
- 2.親族が血迷って勝手に売り払った
- 3.何か私の知り得ない事態が起こり、それが進んでいる
1と2は、まず私の与り知る限り、ありません。
とすれば、答えは「3」。正直、このときはお金がどうこうよりも、ご先祖にど顔向けできないことのほうが心配になっていました。
私はとりあえず、法務局の窓口に舞い戻り事情を説明しました。
しかし、対応してくれた職員の態度は親身になりつつ、しかしどこか事務的であり、具体的な解決策を講じてもらえる様子ではありませんでした。
むしろ机の奥にいる上司と見える男性は「我関せず」といった具合です。(どうやら、この手の問題は日常茶飯事なのかも・・・)
私は仕方なく一旦地元を離れ、一路東京に向かいました。
不動産会社との対峙
東京ではまず権利書を確認し、さらに知己の便利屋に
と連絡を入れます。
すると別の信頼できる筋からも情報を仕入れたそうで(この辺はよくわかりません)、売買契約を取り扱った業者を特定してくれました。
田舎にある地場の業者でしたが、聞いたことのないところです。その情報を持って私は、すぐに田舎へとんぼ返りです。
しかし、対応してきたのは明らかに新卒か、あるいは未経験者と思われる人物。まったくもって、要領を得ません。
こちらの質問に対して
と来たもんです。さらに詰めた話をすると
ばかりで埒もあきません。
結局その日はあきらめて辞去したのですが、どうやら雰囲気から察するに、
- 売買契約自体は完了している
- ニセ木下がいて、それが私に成りすまして売買契約をまとめた
- そしてこの日、事務所に向かった木下こそが「契約に茶々を入れたいニセ木下」くらいに思われている
ということは分かりました。
もしかしたら、そういう風に対応するように言われて新人のペーペーが出てきたのかもしれませんが。第一、そんな重要な問い合わせにペーペーが出てきたというのは、本人には悪いですが、到底納得できる話でもありません。
(そこで声のひとつも上げてやれなかったのは、私の不徳の致すところですが)
契約取り消しに向けて
私としては当然、そんな馬鹿げた話に付き合うつもりはありませんので、再度東京に戻り、直接、知己の便利屋と話すことにしました。
今度は事情を知っている人物が相手ですので、幾分落ち着いて話をすることができました。
ここで分かったことは以下のとおりです。
- 基本的に私はこの土地の所有者であって、土地の賃貸借権を有していることは間違いない
- 物件は、どうやら私に成りすました誰かが勝手に売却し、その資金を持っていった
- 業者側の関与はわからないが、恐らく何も知らない「善意の第三者」
ということで、ひとまず「地面師」と呼ばれる手合が絡んでいることは分かりました。
とにかく概要としては、土地や建物などを所有している人または代理人に成りすまして、取引を行って、建物を売却したり建て替えをしたり、それらに関する契約を行い、金品を巻き上げる詐欺師、ということでした。
無論、犯罪です。
最近、私の様な地元を離れている物件オーナーの留守中に所有者に成りすまし、取引を行うケースが増えているらしく、それではないかとのことでした。
なるほど確かに、少し前、何度か不審な電話がかかってきて
とか
という話をする者がいたことを思い出しました。
その他、資産運用の営業も多かった用に思います。今振り返ってみると、恐らくこれは詐欺師グループが私の動静を探ろうとしていたのかもしれません。
仮登記抹消?法的な要件?
とにかく冗談ではありません。繰り返しますが、私は先祖伝来の土地をみすみす騙し取られるわけには行かないのです。
そこで私は「三度(みたび)」、田舎へ戻りました。今度はその土地で一番の弁護士へ相談をするためでした。ところがこれがまた使えない弁護士でして。
一応、先生の名誉のために名前は伏せておきますが、田舎の弁護士はこんなもんで商売になるのか、と思ったものです。
顔と態度はでかくて、さらに闘わず。
もう、どうしようもないですね。しかし私には時間がありません。
何とかして弁護士から聞き出したことには仮登記抹消やら、不動産業者への正式な通知やら、とにかくやることは多そうだ、ということです。
そして、田舎侍(失礼!)の先生にはお任せできないということも一緒に分かりました。
共闘できるパートナーを見つけ…
それから少しして、私は諦めませんでした。
きっと、あの弁護士はハズレです。
もっと良い弁護士がいるはず。いや、そもそも、もしかしたら弁護士以外にも民間の探偵会社など、そういう会社はあるのでは、と探し続けたのです。
しかし、ネット広告だと、どうしても評判や口コミなど、最近はサクラもいるそうですから心配でなりません。
そこでまずは知り合いをあたってみることにし、そこからとある強力なパートナーと引き合わせてもらいました。それが、今回タッグを組んでいる民間の調査会社です。
彼らは弁護士ではありません。したがって、代理人として立ち回ることは出来ないということでした。しかし様々な世のルールにも明るく、調査員の方も人生経験が豊富な様で、相談もこれまた、上図に話を引き出してくれるのです。
話すことが苦手な私としては安心して終始、委細を話すことが出来ました。
その結果、どうやらまだ、諦める必要はなさそうだ、ということが分かりました。
信頼できるパートナー
まずは何が起こっているのかをパートナーの調査会社と一緒に改めて整理するところから始めました。
そうした結果、あの田舎の態度だけ大きい弁護士とは打って変わって、親身になってくれる様子もあって、再び諦める事なく、その調査会社を通して立ち向かう事にしました。
まだまだやるべきことがあり、本番はこれからといったところです。
定期的に連絡も来ますし、こちらからも分からないことや困ったこと、心配なことは都度お伝えするようにして、とにかく密にコミュニケーションをとっています。
ということで、まだ結論が出ているわけではありません。ご期待に添えなければ、申し訳ございません。
しかし、こういう事案があることを広く、物件を相続している方々には知ってもらいたいと思って書きました。少しでも参考になれば幸いです。
長くなりましたが、今回は私が守っている先祖伝来の土地が奪われてしまったこと、そしてそれを取り戻すべく強力なパートナーと共に立ち向かっているという顛末記を書かせていただきました。
インターネットを通じて多くの方が読まれるでしょうから、これで一人でも、私のような方が出ないことを祈ります。